ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?
「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」とは、不注意と多動・衝動性が主な特徴として挙げられる発達障害の概念の1つです。
ADHDの症状によって会話に集中できず内容を理解できない、頻繁に物をなくすなどの影響が出てしまいます。
また、それらがストレスとなってうつ病などの精神疾患を併発することもあるようです。
ADHDの診断基準
APA(アメリカ精神医学会)の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版に記述されている以下条件が満たされた場合、ADHDと診断されます。
- 「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
- 症状のいくつかが12歳以前より認められること
- 2つ以上の状況において(家庭、学校、職場、その他の活動中など)障害となっていること
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
- その症状が、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されないこと
上記のとおり、ADHDは医師が診察および観察した行動上の特徴に基づいて診断されます。
したがって、MRIや血液検査というように、単独の検査結果で診断できる医学的検査は存在しません。
ADHDで障害年金はもらえない?
結論からいうと、ADHDは障害年金の受給対象となっているため、受給は可能です。
ただし、障害年金の受給可否は、ADHD症状の度合いが障害年金の基準に満たし、なおかつ症状によってどれだけ日常生活および就労に影響を与えているかで判断されます。
したがって、ADHDと診断されたり、ADHDの症状が出ていたりしているからといって、必ずしも障害年金が受給されるとは限りません。
ADHDで障害年金を申請する際のポイント
「ADHDで障害年金はもらえない?」で解説したとおり、ADHDの受給可否は症状によってどれだけ日常生活および就労に影響を与えているかです。
受給申請においては下記2つの申請書類が重要となります。
- 診断書
- 病歴・就労状況等申立書
どれだけ生活に支障が出てるか上記書類で判断されるため、これらの書類にどのような状態なのかしっかりと記入する必要があります。
ただし、診断書は医師が作成する書類であり、医師以外の人は記載・修正を一切行うことができません。
したがって、どれだけ生活に影響が出ているのか具体的に分かる診断書を提出するためには、どのような症状出ているのか、症状によって日常生活や職場ではどのような影響が出て、どのような状態となっているのか、具体的に医師に伝える必要があります。
「病歴・就労状況等申立書」は自分で作成する書類です。
発症から現在までの症状や日常生活で不自由になっていることなどを記載します。
ただし、診断断書の内容は重度ではないのに、病歴・就労状況等申立書では重度になっている場合、整合性に欠けてしまいます。
自分で記載できる書類ですが、診断書の内容と大きく異なってはいけないため、やはり医師にしっかりと情報を伝えておくことが前提です。
ただし、受診する病院の変更など、大きな変化があった場合は5年以内でも区切って記載するようにしましょう。
ADHDの認定基準
ADHDの障害認定基準は以下のとおりです。
障害等級 状態 1級 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの 2級 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの 3級 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの
簡単にいえば、1級はADHDによって身の回りのことができない状態、2級はADHDによって日常生活に大きな制限を受ける状態の場合、受給できます。
3級は労働が制限される状態で受給できますが、障害厚生年金の方しか適用されないため、注意が必要です。
上記認定基準以外にも、医師が診断書記載時に7項目で判断する「日常生活能力の判定(発達障害)」や、5項目で判断する「日常生活能力の程度(発達障害)」があります。
ADHDの障害年金受給事例
ここではADHDの障害年金受給事例についてまとめました。
このように、ADHDで障害年金を受給できたケースは多いです。
簡単にではありますが、それぞれの事例についてみていきましょう。
1.障害厚生年金2級を受給できたケース
ADHDは幼少期に診断されるケースがあるものの、成人して就職してから精神科を受診したため、初診日が厚生年金ということで、障害厚生年金を申請・受給できたケースです。
この方は幼少期の頃から落ち着きがないなどの症状があり、成人後も遅刻・欠勤が続く、周囲との協調性がないなどの理由で解雇を繰り返していました。
遅刻・欠勤で社会生活に支障が出ている点、お酒を飲むと抑制できなくなるといった、具体的なエピソードを記載し、申請したところ審査が通り、受給できた事例です。
生活や将来に不安を抱えているのであれば、まずは精神科を受診し、ADHDであれば、障害年金の申請を目指してみるのも1つの手段です。
2.障害基礎年金2級を受給できたケース
こちらもADHDと診断されたのは成人になってからでしたが、厚生年金に加入していなかったため、障害基礎年金2級となったケースです。
こちらの方も集中力が続かない、不注意を原因としたミスが多く、仕事が長続きしなかったことがきっかけとなり病院を受診、ADHDだと診断されました。
しっかりとヒアリングを行い、日常生活で困っている症状などをまとめて医師に提供したところ、日常生活の支障が網羅された診断書を作成・提出でき、無事受給できた事例です。
3.障害基礎年金2級受給+5年遡及が認められたケース
障害基礎年金2級の受給と、5年の遡及が認められたケースです。
こちらの方も時間を守れない、計算ミスが多いという症状が出現し、初診の時点でADHDと診断されました。
コミュニケーションも上手くとれないことから、進学・就職もできていない状態のため主治医に根気強く依頼して診断書を作成したもらい、家族からヒアリングを行って病歴・就労状況等申立書を作成・申請したところ、障害年金の受給と遡及が認められました。
遡及とは、障害認定日までさかのぼって障害年金を受給することをいい、さかのぼって受給する場合は遡及請求(障害認定日請求)を行います。
つまり、こちらのケースでは、障害年金の受給と直近5年分の障害年金の支給が認められたということです。
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まとめ
ADHDでも障害年金の受給は可能です。
しかし、どれだけ日常生活や仕事に支障をきたしているかで判断されるため、ADHDと診断されたからといって必ず受給できるとは限りません。
どれだけ、支障をきたしているかは、診断書と病歴・就労状況等申立書の内容で判断されます。
したがって、日常的なエピソードを交えながら、どのような支障が出ているか、具体的に分かるようにしなければなりません。
特に診断書は医師しか作成できないため、日頃から具体的な状況について、主治医にしっかりと伝えるようにしましょう。
書類作成に自信がない、医師とのやりとりが上手くいっていなくて悩んでいるのであれば、専門家の意見などを交えながら、一緒に障害年金の受給を目指しませんか?
障害年金の受給を検討されている方はお気軽にご相談ください!
参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット「ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療」
日本年金機構-国民年金・厚生年金保険障害認定基準「第8節/精神の障害 」